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第4,5,6回 月翁文献を読む会報告
「初代黒沢琴古が弟子・月翁に教えた琴古流最古の楽譜」 貴志清一
1710年生まれの初代黒沢琴古は若いときに虚無僧として全国の虚無僧寺に伝わっている本曲を収集しました。
江戸に定着して一月寺・鈴法寺の下、指南所での教授と平行して製管にも工夫を凝らし名声を得ました。
琴古の演奏技倆の高さを慕って多くの門人がいましたが、なかでも九州宇土藩第五代藩主の細川興文は有名です。
その実際の尺八や自筆文書などが20点ほど残っていて宇土市の指定文化財になっています。
(『江戸時代における尺八愛好者の記録』p8、以下ページ数のみ)
宇土藩主細川興文は1723年生まれですので琴古より13才年下です。(p.6)
1745年23才で藩主となりこの時から江戸藩邸と自国を往復していましたから、尺八を琴古に習ったのはこれ以降だと思われます。
もちろん三万石の大名が町中の尺八教授所に習いに行くのではなく、琴古が江戸の宇土藩邸へ教えさせてもらいに行くのです。
この辺の当たり実際の文書を読みますと「ここまで卑屈になる必要があるのかなあ、」と思うのですが、
そこは封建の身分制社会ということでしょう。(p22, p68, p114)
それでは文末の月翁が習った琴古流の譜を見ましょう。掲載したのは「京恋慕」「琴三嘘霊」「恋慕流」の三曲中、恋慕流しです。
琴古流を習っている方なら一見すぐに吹けそうなのですが実際に吹いてみますとかなり難しいことが分かります。
先ず「ツ」の扱いです。
1700年頃に出版された普化尺八最古の教本『三節切初心書』での「ツ」は一節切とよく似ていて、「ツ中」の高さです。
メリ・カリの指示がありませんので陰旋法の影響の大きくなってきていたこの時代を考えますとツは「ツメリ」の可能性も否定できません。
また一節切の名残りのような「ヤ」という指遣いも出てきますのでますますややこしくなります。
さてこの譜の年代なのですが、月翁(1723~1785)が江戸藩邸で住み始めたのが1745年ですから1745~1785の間に限られます。
1772年に月翁は二代目琴古の下で本則取得のために集中的に18の本曲を習いました。
その中で「恋慕流」は「七月二十五日始終」と書かれています。(p.35)
ところでこの楽譜には「霜月朔日伝授」とありますので1772年ではなく、それ以前に初代琴古から習ったものだとわかります。
初代琴古の没年が1771年ですので、それ以前とするとおおよそ〈1750年~70年〉の間に伝授された楽譜と結論づけられます。
単なる「古い楽譜」ではなく今のところ、
「琴古流最古の楽譜は月翁文献中の京恋慕・琴三嘘霊・恋慕流の三曲でそれは1750~70年の間に書かれたものである」と言えます。
それにしましても1664年刊の『糸竹初心集』に書かれている「虚無僧尺八の曲に恋慕流等があり、
それらは呂律に合わせたものに聞こえない」という記事から100年後の楽譜。
その間の音楽的変遷は大いに興味のあるところです。
現在、「糸竹初心集による一節切入門セット」は頒布終了しています
以上が月翁文献を読む会の4,5,6回目の報告です。
この会は途中参加、歓迎ですので、ご興味のある方はご参加下さい。
○名称 細川月翁文献を読む会(月1回)
○日時 第7回2018年10月12日(金)午後1:15~3:15
○場所 大阪府泉南市岡田3-16-16
尺八吹奏研究会・稽古場
南海本線岡田浦駅下車、徒歩3分
○会費 1,000円
○内容 『江戸時代における尺八愛好者の記録』を読み進めていきます。
○お申し込み
ハガキにて「細川月翁文献を読む会」参加希望の旨と連絡法を記載の上、〒590-0531泉南市岡田2-190-7
尺八吹奏研究会 貴志清一宛、ご投函下さい。
『江戸時代における尺八愛好者の記録』(定価3,000円)
※入手は虚無僧研究会本部へ
〒162-0053 東京都新宿区原町3-82 法身寺内
(TEL)03-3202-4876 (FAX)03-3202-3272 (HP)