地無し尺八愛好家、垂涎の竹 初代玉水(ぎょくすい)地無し管を吹く 貴志清一
もうお亡くなりになって40年ほどでしょうか、初代河野玉水(ぎょくすい)。往年の名人製管師です。
戦後尺八界に大きな貢献をした2人の巨匠が海道道祖と二代目酒井竹保ですが、この酒井竹保がこよなく愛した尺八が玉水銘でした。
竹保が登場し玉水氏と尺八談義をする場面の映像は何回見ても飽きることがありません。
この映像はDVD「技に生きる」にして頒布しています。
戦後の地塗り大音量指向の中にあっても尺八の本質である音色、音味(ねあじ)を大切にし1本1本丁寧に製管してきました。
もちろん通常の尺八を作るときは砥の粉という石の成分を漆に混ぜて内径を調律するのですが、
できるだけその竹の持っている個性を生かす形で製管されたようです。
もちろん2代目、3代目も極めて優れた製管師なのですが存命されていませんので「初代玉水管」といえば希少価値的になっています。
仕事としては地塗り尺八製作が主なのですが自分自身の研究として、竹の持って生まれた形で内径を自由に変えられる「地」を
使わない地無し尺八も作ってきました。もちろん地塗り一辺倒の時代にあっても少数の地無し愛好家がそれらを求めてきました。
それで初代玉水地無し管はある程度残っているのですが、その数は大変少ないのです。
この愛好家垂涎の「吹禅」に最適の竹が手元にありますので紹介させていただきます。
長さは標準の一尺八寸。ピッチピッチ(音程)と喧しく叫ばれる前の時代ですので現代管よりは音が低めですが、その分、落ち着いた響きです。
(全体像画像)
((裏)画像)
銘を見ますと、草書で「玉水」、印は「河野(こうの)」です。
(焼き印画像)
・歌口から見た内部
(「歌口より中」画像)
○地無し管には2通りあって、
A.節を残すことにはこだわらず、内部を整えていく。その際内径を絞りたい箇所は漆(のみ)を塗り重ねて鳴り・音律を整える。
B.内部の節を十分残して、各節を微妙に削っていくことにより鳴り・音律を整える。内部の理想的形状を節の残し具合で再現するという極めて難しい製管法。
因みに現在西日本でこの地無し製管をプロのレベルで製品として再現できるのはおそらく河野玉水工房だけだと思います。
日本でも数人かも知れません。地無し愛好家の私としてはもっと増えてほしいのですが、なんと言っても需要があまりにも少ない。致し方ないことですが。
さて、実際の音はどうでしょうか。録音はしていますが、所詮機械ですので生の音にはほど遠いことをご留意ください。
a.全音の各音->素直な音色です。 (音源a)
b.ッメリなどの半音->ほとんど音色の劣化なしで柔らかい音色の半音です。 (音源b)
c.特殊音符->コロなどは、江戸時代から本来こんな感じの音だったと思わせる自然な音です。
玉音(たまね)なども変なハレーション(びびり)を起こさず自然に聞こえます。
地無し愛好家にとってはたまらない良い響きです。 (音源c)
d.超抜粋「(琴古流本曲)山谷菅垣」
->優しい中にもしっかりした響きで、ほんとうに吹いていて気持ちの良い竹です。(音源d)
e.抜粋「(琴古流本曲)鶴の巣籠」
->特殊音符、コロなども美しく処理できます。(音源e)
以上聴いて頂きましたが、私は自分の吹料である二代目玉水氏の節残し地無し管があり「二兎追う者は一兎も得ず」ですので
まだこの竹を十分吹きこなしてはいません。
製作後5,60年は経っているとの三代目玉水氏(初代の孫)のお話ですが、余り吹かれた形跡は見当たりません。
ですのでまだ竹の"本当の音"が出ていないみたいです。それ故に吹くときには慎重にこの地無しの機嫌をとりながら吹く必要があります。
わりあい息の圧を高めてヒューと吹きたい私ですが、如何せん、突発難聴の後遺症もあってこの吹き方をすると後で耳鳴りに悩まされます。
地無し管は最低3年は吹いてこないと本当の音が見えてこないといいます。
ですので誰か今後、せめて3年間じっくりと音出しを中心にこの竹の音色を引きだしてもらいたいものです。
もちろんそれは初心者や呼吸法・吹奏法を身につけていない奏者には無理です。そういうわけで若干もてあまし気味の管がこの初代玉水管です。