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 長管の口元の促成栽培~鉛筆くわえ法(エンピシュア)の劇的効果
 (参考音源:「三谷」部分)
 
 尺八を永らく吹いていますと落ち着いた低い音の出る長管に惹かれるようになります。
 しかし、二尺四寸管程度の長管といえども普通の尺八愛好家にとっては非常に敷居の高いものです。
 
 自分の流派である琴古流本曲ではないので少々未熟さが残りますが、毎日吹いても吹き飽きないほどの名曲:「三谷」を聴きながらお読み下さい。
 ( 音声ファイル「三谷」のURL↓クリックしてください。 )
https://comuso.sakuraweb.com/music/342-sanya.mp3
 
 長管を楽しむためには次のような課題と取り組まなければなりません。
①自分の専門とする流派に長管を前提とした曲目(レパートリー)があるのかどうか。
→無い場合は、他流の曲をある程度勉強しなければなりません。
 個人的なことですが、私は琴古流ですので長管を前提とした本曲はありません。勿論江戸末期には琴古流の奏者も長管を吹いたかもしれませんが、 長管で吹いてこそ味わいがあるという琴古流本曲はありません。したがいまして、極めて少ない時間ですが個人指導を受けた「三谷」や「手向」の2曲だけを大 事に吹いています。
 その内、もう1曲ぐらいレパートリーを増やそうかと思っていますが。
 
②楽器(竹)を手に入れる必要がある。
→一尺八寸管と違って長管は製作数が少ないので良い竹に出会うチャンスが少なくなります。粗悪長管に出会った場合は悲惨で、一生その竹では長管を楽しむ段階に到達できないことになります。  
 「竹に恨みは数々ござる」の言葉通りもう30年ほど前になりますでしょうか、地塗り・細身の二尺四寸管を入手してしばらく吹いていました。と ころがどうも乙ロが極めて出にくい竹でした。顔面の筋肉を総動員して顔をしかめて、やっと音が出るという代物でした。長管を吹くための口元(アンブシュ ア)ができていない時に無理矢理顔をしかめるのですから、まったく吹くのが苦痛で、結局吹くのをやめてしまいました。
 人生に「もし」という仮定は許されないのですが、あえて「もしも」と考えますと、「乙のツから素直に乙ロが鳴る長管を入手できていれば、長管の口元もこの30年弱の間にちょっとは形成されたかも知れない。」ということになります。
 ところが捨てる神があれば拾う神があるものです。地無し延べ竹節残しの一尺八寸管を作っていただいた玉水工房とご縁ができ、3年ほど前に私の 希望通り、「乙レ・ツ」から自然に無理なく「乙ロ」がすっと出る二尺四寸管を入手することができました。しかもそれは地無しで節残しの竹です。音色も地無 し特有の素直な音の竹です。
 
③さて、最低限、乙のレ・ツからそのままの口元で素直に乙ロが出る、そして竹らしい音色の長管が手に入ったとしましょう。
 喜び勇んで毎日1時間、2時間吹き続けますと大抵の人はその内に腕・指の痛みが出てきます。いわゆる関節炎や腱鞘炎というものです。
 楽しみで吹くべき長管が腱鞘炎で「苦しみ」ながら吹くのでは全く意味がありません。
 長管は休み休み練習するものです。しかしそれでも「痛み」が襲ってくる場合があります。たいてい無理な持ち方をしていることがその原因です。 上部を持つ左手の薬指の孔は左に振ってもらっているでしょうか。二尺四寸ともなると、下部を持つ右手の人差し指は、指の腹では無く第2関節と第3関節の間 の膨らみで押さえなければなりません。
 長管は無理の無い持ち方が必要なのですが、なかなか上手くいかないことが多いですね。
 私はこの長管の自然な持ち方を「にぎり持ち」という方法を取って覚えました。もちろん練習の時はこの「にぎり持ち」をフルに活用しています。幸い本番前といえども長管を練習して腕・指の痛みがでたことはありません。詳しくは会報205号を見て下さい。
 
④無理のない長管の持ち方を習得し、よい竹を入手しても、それだけでは長管は鳴りません。
 一尺八寸管を割合うまく吹けても、長管を上手く吹けるわけではありません。大抵の長管は長い分だけ竹も太く、したがって歌口も大きめです。
 すると、標準管での口元(アンブシュア)をそのまま使ってこの大きい歌口に対応しようとすると上手くいかないことが多いのです。
 私もずいぶん苦労したのですが、なかなか長管の口元が形成されず、形成されないから音も冴えないので自然と長管を吹く時間も少なくなる。こういう悪循環の繰り返しがここ2,3年続きました。
 ところが会報336にも書いているとおり、「鉛筆くわえ法」を実践していますと不思議に長管が鳴りだしました。
 吹いている時、今までよりも一回り外側に口輪筋を感じるのです。
 不思議に思っていろいろ考えてみますと、「鉛筆くわえ法」、これです。これしかない!
 実は、口笛練習法も有効なのですが、鉛筆くわえ法は鉛筆の直径分だけより外側の口輪筋を使うことを要求します。これが効果的に長管のアンブシュア(口元)を形成しだしたのです。
 まだまだ試行は続きますが、今回の音源はここ1,2ヶ月の「鉛筆くわえ法」による長管用口輪筋「促成栽培」の成果です。
 (音源「三谷」地無し延べ竹節残し二尺四寸管:三代玉水作)
 因みに、この長管に適した口輪筋によって、却って一尺八寸管や一尺六寸管が吹きやすくなるという現象も見られますので、安心して試すことができると思います。
 もしこの鉛筆くわえ法による口の形(アンブシュア)に名前を付けるとすれば、
 「鉛筆」=「えんぴつ」+「アンブシュア」=エンピシュアとなるのでしょうか。