古伝三曲の「真の虚霊」(音声、楽譜)
-竹保「真霧海箎」を参考に-
貴志清一
わたくしは琴古流本曲を永らく勉強してきましたが、その系統を明記しておきましょう。
初代黒沢琴古-二代琴古-三代琴古-久松風陽-初代古童-初代荒木古童(竹翁)-初代川瀬順輔-山口四郎-松村蓬盟-(貴志清一)
以上のようになります。
もちろん琴古流は初代琴古が吹いたスタイルを化石のようにそのまま継承してきたのではありません。継承の過程でよりよい「手」や表現があればそれらを取り入れました。その本曲に対する柔軟な発想が琴古流本曲を優れたものに育ててきたともいえます。
私の系統から少々ずれるのですが、三代古童は「ツメリーレー」の途中にツカリを入れて「ツメリ-ツレー」と吹き、これが琴古流の印のようになってしまったと塚本虚堂は嘆いています。
「ツメリ-ツレー」は多用しますと、どんな本曲も同じに聞こえてしまい、それぞれの曲の独自性を奪ってしまう危険性があることは私も同感です。
これなどマイナスの発展なのでしょうが、全体としては琴古流本曲は音楽的に洗練されてきました。
僭越ながら、山口五郎師のCD「尺八の神髄」(琴古流本曲36曲所収)の中に少々演奏上の疑問もありますので非才を顧みずHPの音声ファイルとして36曲の琴古流本曲を抜粋版ですが掲載していきたいと思います。2016年度中に達成しようと思っております。
さて、今回は「真の虚霊」を取り上げます。
古伝三曲の一つのなのですが、この中での乙ハ・甲ハ・乙ハ・甲ハの繰り返しが出てきます。(図の□で囲んだ箇所)
琴古流の一般的な解釈では“淡々”と演奏するのですが、単純に演奏しますと幼児がオモチャの笛を吹いているようにしか聞こえません。音で言えば
近似的にC♯→オクターブ上のD♯、9度の跳躍です。この"苦笑"を誘うような音型が嫌で、わたくしは演奏会での演奏を避けてきました。
「全く同じ音型で、これほど違う表現になるのか!」と驚きました。
琴古流といえども他の古典本曲を参考にして悪いはずがないと思い
、以来この竹保の奏法を取り入れています。
今まで「霧海箎鈴慕」「吉野鈴慕」「巣鶴鈴慕」「雲井獅子」「三谷菅垣」の音源を掲載してきました。今回の6曲目「真の虚霊」をスタートとして、あと30曲を本年中に掲載してゆきます。
尺八愛好家のご参考になれば幸いです。