新緑・山伏・一節切(ひとよぎり)
貴志清一
2025年4月29日は恒例の大阪府泉佐野市の犬鳴山・山伏祭りでした。
日本遺産にも指定されている「葛城修験」の大きな行事です。
修験道の柱は山林を廻って深山幽谷の霊気を自らの体に取り入れ悟りを開き、
その力を里の人々に分け与え加持祈祷をしながら廻国修行することです。
この行(ぎょう)は廻国修行僧の虚無僧にも通じます。
厳しい吹禅(すいぜん)行によって到達した尺八の音色には人々を癒やす力が籠もっています。
私は廻国修行はしませんが、いつかは単なる音響ではない自然の力に溢れたような音色・演奏がしてみたいものだと思っています。
葛城修験とは和歌山の加太から犬鳴山、金剛山、大和葛城山、そして奈良の亀が瀬に埋められた役行者ゆかりの経塚28宿を
廻って修行するものです。その中心の行場が犬鳴山七宝滝寺です。
自分では修行しませんが、その行事を見せていただき、柴燈護摩の霊験あらたかな護摩の灰を身に受け、
少しでも尺八上達を目指そうと犬鳴山に行ってきました。
男子は柿色、女子は紫の姿の行者さんが数十人、不動明王の広場で般若心経の声も高らかに法螺貝の鳴り響く中、
粛々と行事が進行していきます。
(護摩焚き)
(不動明王)
ここは滝行をしたり、加持祈祷を行う本堂もあるのですが、修行としては経塚に参ることも重要です。
この第8番経塚はここから高低差350mの直登に近い山道を登ります。
40分ほど急な山道を登り詰めると28宿中8番目の法華経五百弟子授記品の経塚に至ります。
山頂からは泉南地方が見渡せ、遠くに関西国際空港が見えます。
(経塚と権現山よりの景色)
ここよりさらに西に行くと天狗岳があります。天狗はよく山伏の姿で描かれます。
空を飛ぶという超能力も持っているらしいのですが、新緑のまぶしい尾根道を15分ほどで到着。
山頂は見晴らしはきかないのですが、なんと文字通り天狗の石像があります。
もちろんここでも般若心経や真言を唱えて修行の証(あかし)に碑伝(ひで)を供えます。
(天狗岳と碑伝)
さて山の霊気を吸ったあとで下山にかかります。
途中、青葉若葉のまぶしい中、持ってきた一節切(ひとよぎり)を吹きました。
曲は1608年に一節切中興の祖、大森宗勲(そうくん)が書いた「短笛秘伝譜」中の黄鐘管用の「四の手」。
この曲は来月5月25日、京都の黒谷で行われる「宗勲没後400年記念演奏会」で私が吹く曲です。
(一節切行事)
演奏の合間、風が木々を渡っていく音もしますので、それもお聞きください。
やがて元の急な道を無事に転ばずに戻ってきました。
加齢による踏ん張りのなさが(72才)転落事故に繋がりますので気をつけて下山しました。
若い時から折に触れて山に行ってましたが、そろそろ老化を考えますと、周りの迷惑にならないように、
そしてできれば一日でも長く尺八を吹いていたいので山歩きから足を洗う時機かなとも思っています。
幸いこの日は、大陸からのPM2.5も少なく新緑の良い空気が吸えたことに感謝したいと思います。