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インターネット会報2005年3月号
【解説】 「楽曲分析の初歩:「春の海」を例にして」 貴志清一
今回は、宮城道雄の名曲「春の海」を例にして、楽曲分析の大切さを考えていきましょう。
さて、邦楽の代表のように言われる「春の海」ですが、たしかに楽曲として良くできていると言えます。その良くできている理由はいろいろあります。旋律の美しさは勿論ですが、そのよく考えられた構成にも負うところが大きいと思います。
最初の部分を考えても、親しみやすい「民謡音階」を基調にした旋律が箏の伴奏に乗り、ややあって「都節(陰音階)」に転じそのまま尺八の鳥の鳴き声を思わせる独奏に入ります。テンポが変わり流れるような旋律になり、前半を終えます。
この部分だけでも十分に「よく考えられた」曲だと言えます。
しかし、次の中間部では、もっと構成的です。
そんな、面倒なことは考えなくても、吹ければいいのだろ・・・と言う声も聞こえてきそうですが、それは作曲者に対して失礼だと思います。
中には、西洋音楽のまねごとに終始しているゴミのような新曲もたくさんありますが、演奏に値する曲を吹く場合に作曲者の意図を考えることは、作品に対して敬意を払うことです。作品に対して尊敬を払わない演奏者は、その曲を演奏する資格はないとも言えます。
楽曲の構成を知ることは、作品に対して敬意を払うことなのです。
さて、私にとって「春の海」は演奏するに値する曲ですので、もしそう思っている尺八奏者は、以下の分析を参考にしてください。
くれぐれも言っておきますが、この分析は楽曲分析の初歩であり、これだけではこの曲が「わかった」ことにはなりません。しかし、最低このくらいは知っておかなければならないものです。
ここでは、中間部だけをとりあげて見ます。
(インターネット会報では楽譜の例を省略していますので、各自ではじめから小節番号を必ずつけてから以下の文を読んでください。)
中間部は27小節目から始まります。 わかりやすいように、27小節目〜34小節目を(ア)とします。
(ア)では箏が先に出て尺八が呼応します。リズムはタタカタタタ・タカタ となっています。このリズムが中間部の基調になります。
(イ)は35小節目〜40小節目で、箏の細かい動きにゆったりした尺八が乗ります。ただし、(ア)の都節音階から律音階にかわり明るい感じを出しています。
(ウ)41小節目〜52小節目 (イ)と同じ旋律ですがもう少し長くなり展開します。
(エ)53小節目〜60小節目 この旋律は何処と同じでしょうか?そうですね。(ア)と同じです。しかし、尺八・箏が入れ替わり、尺八からの掛け合いになっています。宮城道雄師は、何の考えもなしにそうしたのではありません。よく考えた末の結論で、これが曲に変化を与えています。
(オ)61小節目〜66小節目 一転して都節音階になりますが、ここの箏は尺八の(イ)の旋律を陰音階化したものです。この変化は素晴らしく曲に奥行きを与えています。
(カ)67小節目〜78小節目 ここは(ウ)と全く同じです。前に出てきたパターンを再現するのは大変効果的なのです。聞く人に安心感を与えます。そして、
(キ)79小節目〜86小節目 ここへきて、そっくりそのまま(ア)を再現します。
あとの考察は賢明な読者にお任せしますが、ここでのほんの少しの考察でも、いかに宮城道雄が曲の構成だけとってもよく考えているというのがわかります。
「私は、この作品に敬意を払っています」と百回言っても、それは敬意にはなりません。いろんな角度から曲を考えることが演奏者には必要なのです。その一つの角度が、楽曲分析だと思います。
尺八奏者は、是非このようなことも考えて練習に励んで貰いたいと思っているこの頃です。
※尺八吹奏研究会・会報198号に、この文が楽譜付きで解説されています。ご希望の方は、300円分の切手を同封の上、便箋に「会報198号希望」と明記して下記までお送り下さい。折り返し会報198号をお送りいたします。
また、前回の会報等で紹介しています「古管・名管演奏会DVD」にも私が吹いています「春の海」が入っていますので参考にしてください。
〒590-0531 大阪府泉南市岡田2-190 貴志清一宛