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                   尺八愛好家、垂涎の竹  二代目玉水(初代?)地塗り管を吹く  貴志清一

 河野玉水銘(こうの ぎょくすい)。 三代続いている名人製管師の銘です。
 戦後の地塗り大音量指向の中にあっても尺八の本質である音色、音味(ねあじ)を大切にし1本1本丁寧に製管してきました。
 砥の粉という石の成分を漆に混ぜて内径を調律するのですが、できるだけその竹の持っている個性を生かす形で製管されました。 

 それでも50年ほど前でしょうか、当時の尺八愛好家の需要に応えるべく色々な作り方をしてこられたようです。
 華麗な良く響く音色で、しかも地歌を吹くためにッのメリが出やすいように製作した竹があります。

 この工房は日本のトップクラスの尺八製管をするのですが、研究のために地無し管も年間何本か作ってきました。
 しかし一方では今回紹介するような太い良材に地をたっぷり置いて製作した究極の地塗り尺八も製作しています。
 地塗りなのにッのメリ音の音色が潰れてしまわない、そして舞台でも映える響く上品な音色です。

 自分の持ち竹ではないので持っている性能を引き出せていないのですが、例として『六段-初段-』を聴いてください。
音源「六段」

 まだまだ修行途上の私が吹いても、その地塗りの華やかな響きがわかるかと存じます。
 但しッメリの音を潰さないように「ツ」の全音は「かなり低い」。平気で半音下のツ中まで下がります。
 ですので西洋の和音を前提とした昨今の新曲などを吹くには厳しいものがあります。
 しかし、当時の新曲で山本邦山の「壱越」は「ツ」が少ないので華麗に吹けます。山本邦山もこういうタイプの竹を使っていたのでしょうか。
 『壱越』のさわりの部分をお聴きください。
音源「壱越」

 私の技倆はお許し願うとして、こういう華麗な音色で乙ロも素直に響いて鳴ってくれる竹は恐らく尺八愛好家の垂涎の竹でしょう。
 しかし、私のとっては「垂涎」ではないのです。必要があるのなら吹くのですが、必要がなければ吹かないで済ましたい竹です。
 そんな贅沢を言うな!と叱られそうですが、なにしろ重い!
 毎日息を通し練習している地無し管は340gですが、この地塗り管は地がたっぷり入っていて(だから響く)なんと523gもあります。
 太い竹材にしても、考えられない重さです。

 (計りに乗せた地無しと地塗りの写真)



 現在、この竹がどの程度音色が向上するかを試行錯誤して「竹を慣れさせている」のですが、
左手親指がもう少しで腱鞘炎になるところでした。この重い竹を左親指だけで支えるのですから対策を考えました。
 すなわち、尺八の持ち方を根本的に変えるというものです。
 私のように時間がたっぷりある奏者はいいのですが、そうでない人には持ち方を変えるということは厳しいものがあります。
 私は五孔をだいたい指紋の渦に近いところで45年間支えてきました。そして、そのことで腱鞘炎になったことはありません。
 図①を見てください。

(図①

 尺八の重さが私の地無しで340g。この位ですとあまり重さは感じられません。
 しかし71才という年齢で筋肉・腱が劇的に衰えてくると、523gという重さは負荷がかかりすぎて指が痛くなります。
 早晩、腱鞘炎になり尺八が吹けなくなる危険性があります。
 よく耳にする、
 「60才を越えたので、尺八を吹くのが辛くなりました。」
 「70才を越えたので、もう限界です。尺八を吹かなくなりました。」というのは、もしかすると重い尺八が原因なのかもしれません。
 そこで、指の筋肉が有効に使えるような関節を曲げた持ち方をしてみました。指が伸びきっていないので、基本的に「支える筋肉」が使えます。
 図②の通りです。

(図②)

 
 これによって持ち方という初心者段階の練習をしなければなりませんが、問題は解決しました。

 但し、ここしばらく吹いて様子を見たのですが、やはり1時間ほど吹くと腱鞘炎の心配が出てきます。
 1日30分と決めて練習すべきだと分かりました。

 しかし、とりあえず「重いけれど古いタイプの玉水管がどのような音の変化を見せるのか」を5月末まで1ヶ月あまり探りたいので
 騙しだまし吹いていきたいと思います。
 恐らくこの竹は6月からはお蔵入りになると思います。

 それにしましてもこの素晴らしい竹は「高齢者には凶器と化す」ということが分かりました。

 結論としては「素晴らしい玉水管(金3線)」といえども、私のような高齢者には「垂涎しない」尺八だということになりました。

(玉水焼き印)