尺八からたどる世界の笛めぐり ~小学校・音楽鑑賞コンサート: 貝塚市葛城小学校~ 貴志清一
今年も尺八という日本の伝統楽器を少しでも知ってもらうために小学校での音楽鑑賞コンサートにいってきました。
(2024年1月31日の記事)
去年も行きました貝塚市立葛城小学校です。
今の6年生は1年前に「春の海」などを尺八・琴で聴いていますので今年は趣向をかえました。
自分の住んでいる土地に代々受け継がれてきた楽器は日本では尺八などですが、
場所や民族がかわれば楽器も違ってくるということを知ってもらいたいと思いました。
世界にはたくさんの笛類がありますが、とりあえず7本の笛を例にして尺八の特性を知り、
あらためて「尺八は日本の風土に合っている」ということを実感してもらいたいと考えました。
そこまで理屈をこねなくても、唯々「笛の音色はいいなあ」とか「音楽っていいなあ」と体で感じてもらえれば十分だとこのコンサートを計画しました。
題して「世界、笛めぐり」。
以下、各音源は曲名をクリックしてください。
(プログラム)
1.「春の海」(さわり)
尺八といえば春の海です。昨年度も聴きましたので始めの部分だけ演奏しました。
2.「江差幻想」
民謡の名曲、江差追分を元に「波」の音をいれています。
いかに尺八の音色が波や木々の葉のざわめき、すなわち自然音に近いかということが実感できます。
3.「アリラン」
韓国の学校教育にも取り入れられている、「短簫(タンソ)」という楽器です。
細身ですがやはり7節があり独特の縦首振りによる激しいビブラートをかける楽器です。
チャンゴという打楽器の音をギター奏者がギターの胴を叩いて模しています。
日本と朝鮮半島はこのタンソを聴いただけで「いかに近いか」が実感できます。
4.「コンドルは飛んで行く」
1万年以上前の氷河期、ユーラシア大陸とアメリカ大陸が陸続きだったころ
西から東へマンモス(食料)を追って移動した末裔としてのアンデス山脈の民がペルー・ボリビア・エクアドルのインディオです。
日本人と同じで赤ちゃんの時に蒙古斑をつけている民族です。
すすり泣くようなビブラートと尺八と同じような風の音。理屈無しに引き込まれる音色を持っているのがケーナです。
5.「悲しき羊飼い」
日本から朝鮮半島、中国からシルクロードを西に旅しますと中央アジアに至ります。
なおも西にカスピ海・黒海にまいりますとルーマニアがあります。
葦の筒を並べただけのもっとも単純な楽器がナイ(パンパイプ)です。
かつてシルクロードを経由して西域音楽として唐(AD618年~907)の宮廷音楽にも使われたものです。
中国名は排簫で日本の正倉院にも残っています。
シンプル(単純)なだけに、有無を言わさず心にしみ通る音色です。単純さによる美しさを再発見できる楽器でしょう。
ただ如何せん、吹奏が困難な楽器で、当日もミスが多く恥ずかしい限りです。
6.「カントリーロード」
同じくパンフルートで児童の知っている曲を演奏しました。
学校公演では「知ってる曲」の演奏は不可欠です。
7.「トトロ」
地図を西にたどり黒海からイタリア半島へ。イタリアで生まれたオカリナを演奏しました。
この丸い感じの笛はやはり素朴さで人を惹きつけます。
8.「ファランドール」
スペインから南フランス、それにブリトン(UK)に残る3孔しかない縦笛のガルベ。左手だけで演奏できます。
そして右手は方からぶら下げた中太鼓をたたき行進します。
作曲家のビゼーが感心してこの笛のアイデアで「アルルの女」のファランドールを作りました。
9.「クラリネットポルカ」
最後はリコーダーです。韓国の小学校では自国の民族楽器・タンソを教育楽器としていますが、
日本では西洋のリコーダーを教えています。良いか悪いかは判断の分かれるところです。
日本の普通の子どもだった自分自身、この笛は好きでした。
但し、未だに本格的な「メヌエット」や「ガボット」みたいな西洋の踊りから来た曲は"よくわかりません"。
またリコーダーはバロック音楽での重要な楽器でしたが、未だにバッハの「管弦楽組曲」を聴いてもリコーダーは聴いても
通奏低音のバスの動きや中声部の旋律の流れは"聴けません"。私は尺八演奏家ですので「悔し」くは無いのですが、
ある意味「西洋クラシック音楽の縁無き衆生」のようです。
それでもこんな「クラリネットポルカ」のような民族音楽をリコーダーで吹くのは好きですね。
10.「チャルダーシュ」
ここで「おまけ」みないですが、尺八でも無理をすれば速い曲も吹けるという例でジプシー音楽を演奏しました。
激しいポルタメントを入れても良いのですが、そして尺八はポルタメントが得意なのですが、今回は割合淡々と「チャルダーシュ」を吹いてみました。
尺八でジプシー音楽なんて、無意味!をいう声も聞こえてきそうですが、「日本人が日常聞かなくなった尺八の音を聴く」機会と割り切って演奏します。
尺八はもしかすると「絶滅危惧種」かも知れません。今は何よりも尺八の音に接する機会を増やすことが急務だと思います。
そして尺八の音色に接して、その後、尺八古典本曲の良さも発見してもらうのが良いかと考えています。
11.「夢の世界を」
最後に尺八・ギターの伴奏で教科書に載っている歌を児童と一緒にえんそうしました。
子どもの歌声を聞いて、やはり世界最高の楽器は「人間の声」だなあと実感しました。
こういうささやかなボランティア演奏が将来の尺八、ひいては邦楽に少しでも貢献できるのではないかと思っています。