CD「音の葉隠れ」を拝聴して 貴志清一
古典本曲の名手、泉武夫氏の新しいCD「音の葉隠れ」が発売されました。
地無し尺八を中心に産安等の名曲を吹いていますので早速聴きました。
一言で言えば「すばらしいCD」です。
収録曲は次の9曲です。
亭/雨月/延〈以上泉武夫〉/山越双管/荒城の月Duo〈泉武夫編曲〉/薩慈/山谷/鹿の遠音/産安
自作自演曲も3曲ありなかなか意欲的なCDです。横山勝也の直弟子で、その情熱的な演奏を見事に受け継いでいる演奏です。
参考として私の感想を述べさせていただきます。
全曲一流の尺八演奏家をも凌ぐ名演奏の数々で、まず感心しました。
それに種々たくさんの尺八を縦横無尽に吹きこなしていて常人ではない高い吹奏力にも圧倒されました。
とにかく十年一日のごとく一尺六寸・一尺八寸・二尺四寸の3本をカタツムリのごとくのんびり吹いている私自身を振り返るよい機会になりました。
少し聴かせていただいて、どういう風に私にとって勉強になったかというのは以下の通りです。
薩慈、産安など往年の全盛期の横山勝也氏を彷彿させる情熱的な演奏で感心しました。
このタイプの曲に必要な高い吹奏能力の裏付けが伝わってくるようでした。
「亭」等の自作曲は、昔流行った単なる12音を確率で並べるとか、わざと不自然な音の流れを連続させるといった自己満足的な音楽ではなく、
作曲者自身の自然な感性、音の流れを入れて、しかし現代曲として成立させているところは本当に見事だと思いました。
滝廉太郎の「荒城の月」もほとんど「荒城の月による幻想」とでもいうべき創作意欲に満ちた作品だと思います。
原曲の4/4拍子をくずしているところは、私のようにある程度西洋楽器を学んだことのある者にとっては違和感はあるのですが、
通常の音楽を聴く人にとっては夢の世界とでも言うべき素晴らしい音の空間だと思います。
「鹿の遠音」は私も、何十回と小さな演奏会で吹いていますが、地無し管でここまで音のコントロールができることは驚きです。
普通の尺八愛好家が地無し管を吹くと、
・鳴らない
・音が不安定
・コロや特殊音が出にくい、
となるのですが、この琴古流秘曲の「地無しで吹く鹿の遠音」はそういった偏見を見事に打ち破っています。
私は二代目河野玉水師の地無し管を使っていますが、これは頼み込んで「節を残して」作ってもらったもので、もう少し落ち着いた音です。
https://comuso.sakuraweb.com/bamboo409.htm
それで私の演奏はやや控えめな「鹿の遠音」になるのですが、秋の奥山で雌雄の鹿が鳴き交わすのですから、
いつか連管で泉氏に雄鹿、私の節残し地無し管で女鹿として演奏してみたいと思いました。
こんな素晴らしいCDですので、たくさんの尺八学習者に聴いてもらいたいものだと思いました。
※「CD音の葉隠れ」は邦楽ジャーナルの通販部で取り扱っています。
https://hj-how.com/SHOP/1642.html