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        お琴は必ず純正に合わせてください。
               濁った響きは心まで濁ります。
                                       貴志清一

 最近三曲合奏でもチューナーという百害あって一利しかない機械とにらめっこしてお琴を調弦する奏者が増えてきました。
平調子なら一の高さを尺八からもらって、一・二、一・三でD-G(レ-ソ)D-A(レ-ラ)を合わせると、一二三五七八十為巾が決まります。
そして七六五と引いて六(ミ♭E♭)が決まれば、六-九が五度で決まり、あとオクターブで四、斗が合い、昔のお師匠さんなら1分もかからないで調弦することができます。

(画像1)

 それをチューナーの緑のランプが点灯するまで柱を上げ下げして、しかも13本全てそのやり方でするものですから5分でも10分でも必死にあわしている姿をよく見かけます。
 元々お琴はピアノのように総重量何トンという力で弦を引っ張っているわけではないので弾き始めは糸が引っ張られて少し長くなり音が下がり、
その反動で縮まって音が高くなり、ようやく安定した音高になるので安定したピッチになるには少々時間がかかります。
 その原理を無視して緑のランプがなかなか点灯しないので、ガンガン何回も弾くので「赤・緑・赤・緑・・・・・・・」と永遠に合わない状態で調弦の戦いをしてしまうのです。
 

[平調子とチューナー]
 一の糸と二は五度の間隔ですので(一がD・レとすると二はG・ソ)非常にきれいな響きになります。
しかし一をチューナーに合わせたとして、二もチューナーで合わせますと実は合っていないのです。
 チューナーの五度は純正ではないのです。それは数学的な妥協の産物なのです。
 半音を100に刻んだものをセントcentと言いますが、純正の五度は2セント、すなわち半音の2%高いのが調和のとれた五度音程なのです。
 
[西洋音楽の和声を元にした音楽]
 伝統邦楽の平調子はこのように一の糸を基準にすれば美しい調子に仕上がるのですが新しい曲ではそれは通用しません。
 新しい曲というのは西洋の和音を元にして作曲されたものです。
 最近の曲はもちろん、50年前の日本的な雰囲気を持った名曲「萌春」ですら西洋の和声を多用しているのです。
 この新しい曲群を演奏するためには西洋の純正調でお琴を調弦しなければなりません。
"西洋音階だからチューナーを使う"というのはとんでもない話で、やはり、主音だけを決めてあとは純正に合わせていくのです。
 理論的には主音を元に次のような音高関係になります

 (画像2)

[理論は分からなくても、手順が分かればOK]
 この図や音響理論はとばして、以下の手順さえ守れば非常に美しく純正に調弦できます。
 たいていのお琴の楽譜には調弦のためにドレミやCDE・・・などが書かれています。
 そして例えば、長調でも短調でも五線譜のト音記号横に♯も♭もなければそれはハ長調またはイ短調です。ともに基準音はC(ド)です。

[純正調の合わせ方例]
 純正調の調弦の例としてこのハ長調(イ短調)を合わしましょう。
1.始めにチューナーで例えば440Hz(ヘルツ)でC(ド)の音を鳴らしながらCドの糸を弾いて"うなり"がないように一つの音に聞こえるように柱を動かします。
この場合、低い方からだんだん音を上げていってピッタリ合う所を探すのがコツです。
決してメーターやランプを頼りにしてはいけません。頼るのは自分の耳だけにしましょう。

2.次にC-G(ド-ソ)の五度を決めます。きれいに合う所を探してください。
3.C-C(ド-上のド)オクターブをうなりのないように合わします。

4.C-F(ド-ファ)の五度を決めます。

5.次にドーソーミ(C-G-E)と弾いてミEを決めます。このミを純正にとるのは訓練がいりますので出来ないときは躊躇せず必要悪としてチューナーを使います。
チューナーでピッチを主音よりも3Hz(ここでは440-3=437)低くしてミEの音を鳴らしてミの糸の高さを決めます。

6.ミEを元にE-B(ミーシ)で五度を合わせます。

7.E-A(ミーラ)で五度を合わせます。

8.ラAを元にオクターブ上のラを合わせます。

9.Dレの音が残っているのですが、これには2通りあります。
 a.長調の時(この場合ハ長調)Gソ-Dレ(上)と五度で合わせ、
上のレを元にオクターブ下のレを合わせます。
 b.短調の時(この場合イ短調)A-D(ラーレ)の五度で合わせます。

以上で純正調のドレミファソラシドが揃います。
 あとはオクターブでまだ合わしていない音を調弦します。

(画像3)


[例]
 たとえば「未来へ」という楽譜を弾くとします。シに♭がついていますので♭ひとつのヘ長調です。主音はファですので、ファを基準に上記と同じ手続きで調弦していきます。

(画像4)

 従来、低音域が主の十七弦だけではなかなか伴奏には不向きだと思われていたのですが、それは音が純正に調弦されていないのが原因です。
十七弦も純正調できちんと合わせればなかなか美しい響きがでます。
 例として私が講師をしています合奏勉強会での練習演奏(一部)をお聴きください。
 (音源442-1(1) )
https://comuso.sakuraweb.com/music/442-1 (1).MP3

 私どもの「貴志清一合奏勉強会」では合奏技術の基礎としてこの純正調に合わす訓練にも力を入れています。
 先日の勉強会(2021年7月)でチューナーのランプ使った調弦がいかに美しくないかを知ってもらうために、わざとチューナーの緑ランプだけを頼りに
すごい時間をかけて調弦しました。
すなわち、お琴の弦を弾いてチューナーのランプが緑に点灯するまでしぶとく合わすのです。
しかも無意味とは知りながら17本すべてこのやり方で調弦してみました。
 その調弦で先ほどの「未来へ」のはじめを弾いてもらいました。
 ( 音源442-1(2) )
https://comuso.sakuraweb.com/music/442-1 (2).MP3

 なにかキーボード的な響きで、全て濁った音になっています。
 こんな濁った音を1日に2時間練習するとして1年で700時間ほど。10年も弾いていますと7000時間になります。
10年間濁った音に聞くことになりますので心の中まで濁ってきそうです。
 逆に考えて、純正に合わした響きの中で10年で7000時間も聞いていますと心の中に"美しさを求める気持ち"も生まれ、
身体が良い響きで包まれるので心の健康にもよいのではないでしょうか

 参考としてト短調(♭2つ)でシ♭(B♭)を基準に純正に合わした「コンドルは飛んでゆく」を聞いてみてください。
 美しい響きの十七弦をバックに尺八の音まで何か伸びやかに聞こえます.
 ( 音源442-1(3) )
https://comuso.sakuraweb.com/music/442-1 (3).MP3

 また「萌春」のほんの一部分ですが、ここの出だしはAm-Emの繰り返して正に西洋の和音そのものです。
この曲も純正調に合わせていますので少しお聴きください。
 ( 音源442-1(4) )
https://comuso.sakuraweb.com/music/442-1 (4).MP3


 (画像5)

以上の音源をお聴き頂きまして「美しい響きだ」とお感じになれば、ぜひ尺八の方はこの解説を持っていつも合奏するお琴の奏者に見せてください。
そして純正に合わせて美しい合奏をお楽しみください。
 またこの文をお読みの方がお琴の方でしたら早速この純正調の調弦にチャレンジしてください。
ご感想をおまちしています。×××を@に変えて、kiyosan×××dune.ocn.ne.jp 件名「純正調の琴」