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乙ロを楽しむ琴古流本曲『山谷菅垣』
~琴古流の皆さんへの朗報~

室町時代から江戸前期の長きにわたって薦僧(虚無僧)が門付けで吹いてきたのが三節切(みよぎり)というタイプの尺八でした。
これは明らかに一節切とは構造的にも音楽的にも別のものでした。

尺八吹奏研究会で永らく文献等を調べて何とか復元三節切を試作することができました。
これは円筒に近いもので根節を使った逆円錐管のいわゆる普化尺八とは異なっています。
実際に吹いてみますとかなり低音域は出にくいものです。

その伝統を引いているのか井原西鶴の『武道伝来記』にも曲名がある「鶴の巣ごもり」などは名曲であるにもかかわらず最低音は乙ヒです。
秘曲「鹿の遠音」なども伝説では南北朝の楠正儀まで遡る古い曲ですが、その最低音は乙ハ(C)で、まったく乙の音域は皆無に等しいと言えます。 
もちろん「一二三鉢返」などは乙音のツメリ~ロで始まるのですが、誰が聴いても文句なしには名曲とは言いにくいと思います。
吹いていて興味深く、聴いていて面白い曲で乙ロを効果的に使った曲は残念ながらありません。強いて言えば「夕暮の曲」ぐらいでしょうか。
これはやはり歴史的ないきさつが作用していると思います。

いきおい乙ロを吹いて楽しめる「手向」などはきわめて魅力的に思えますし私もほんとによく吹きます。
そこでせめて一曲なりとも乙ロを効果的に使える琴古流本曲があればなあと思うのです。

そして気づいたのですが、古来、琴古流の名曲と誉れの高い「山谷菅垣」を「ウ(A♭)」ではなく「ツメリ(E♭)」で始めると
乙ロがきわめて重要な働きをしてすばらしい「乙ロを楽しむ」琴古本曲となることがわかりました。

この気づきのきっかけは、いつも練習している地無し二尺四寸管で「山谷菅垣」を吹いたとき、
「一尺八寸管でもこの高さで吹けるのではないか」と考えたことによります。

以来ツメリはじまりの山谷菅垣はより落ち着いた琴古流名曲として「乙ロで楽しんで」吹いています。

楽譜と音源を付けていますので、琴古流の皆さんは是非試してください。 
なお、『三節切初心書』を元にした三節切研究の成果の資料紹介は近日中にしたいと思っています。

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音源:

https://comuso.sakuraweb.com/music/440-sanyasugagaki_tsumeri.MP3

楽譜