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尺八奏者に深い示唆を与える演奏会
「薩摩琵琶:島津義秀の世界」(京都12/5,大阪12/6)
                                                                    貴志清一
 「琵琶と尺八は一体のものである」と言われても、また「尺八奏者に深い示唆を与える琵琶」と聞いても少々戸惑ってしまうかも知れません。
 琵琶は〈薩摩琵琶〉
 尺八は〈天吹(てんぷく)〉
 場所は〈鹿児島〉昔の薩摩です。
 薩摩には「郷中(ごじゅう)教育」というものがあり、青少年が自興自立で鍛え合ってきました。西郷隆盛(1827-77)もこのような郷中教育の中で育てられました。その基本が中興の祖・島津忠良(1492-1568)が作った「いろは歌」です。

たとえば「へ」ですと、
「(へ)下手ぞとて我とゆるすな稽古だに つもらばちりも やまとことのは」
⇒自分は下手だと卑下して努力を怠ってはならない。稽古を積めば少しづつ進歩して、遂には上手になれる。ちりも積もれば山となる。継続は力なり。
 尺八を手にして練習を始めても、どうしても良い音が出ない、指が回らない・・・、嫌になってその日の練習は終わり。そのくせ「明日は上手く吹けるかも知れない」という淡い期待を残して翌日へ。そんな繰り返しの尺八愛好家への警句です。
 さてこの「いろは歌」をより普及・浸透させたのが薩摩琵琶です。それで筑前琵琶にくらべて薩摩は質実剛健な琵琶になっています。
 その薩摩琵琶と同じく江戸時代を通じて薩摩武士に愛好されたのが天吹(てんぷく)です。
薩摩藩でしか吹かれなかった幻の尺八ですがその音楽も薩摩琵琶同様、武士の気根を育てるような精神性を持っています。
「いろは歌」の島津忠良は薩摩琵琶を天吹、両方奨励したと伝えられています。すなわち、
「琵琶(薩摩)と尺八(天吹)は一体である」と言えます。
 なかなか身近には聴けない薩摩琵琶ですが京都(12/5)大阪(12/6)にて島津義秀氏の独演会があります。
氏は島津四家の一つ、加治木島津第十三代当主であり、また天吹の継承者でもあります。
 薩摩琵琶の精神性は尺八吹奏上、非常に得るところの多いものがあると思います。