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一休さんと尺八コンサート
                                                                    貴志清一
 尺八吹奏研究会では2019年11月10日、「新川家 秋の邦楽コンサート」、副題「一休さんと尺八 コンサート」を開催させていただきました。
 
 一休禅師は尺八を吹きました。吹いた尺八は虚無僧尺八ではなく一節切でした。この一節切は江戸前期に大流行するのですが、吹いた曲は当時の流行歌である小歌(こうた)の類いでした。もちろん「手」とよばれる尺八の本曲のような独奏曲を大事にしようという動きもあったのですが、態勢は小歌に合わせて吹くことになってしまいました。
 そこで、今一度一休さんが「禅の悟りの境地」とまで言った一節切について考えて見ようという趣旨で今回の演奏会を開くことにしました。
 
 プログラムの解説は次の文から始まります。
 
プログラム 第1部 尺八古典本曲
 
 禅を究めた有名な一休さんは1394年に生まれました。1418年に師から"人生、時にはひと休みしたほうが悟ることも多い"という意味でしょうか、「一休」という号を授けられました。
 漢詩も良くしましたが、その中に、
 「自従切断両頭後 尺八寸中通古今 
  吹起無常心一曲 三  千里外絶知音
 自ら(竹の)両頭を切断してより、尺八寸の中は古今に通ず 無常心の一曲を吹き起こせば 三千里外に知音絶す」
 
 高僧の悟りの境地など私のような凡人の窺い知れない世界ですがあえて訳してみますと、
 「竹の上下を切り尺八寸の一節切(ひとよぎり)を作ると、その中に古今東西の歴史がつまっている。その笛を諸行無常の心で吹き深く瞑想する。その時の私の深い悟りの境地は三千里の範囲の人間の中ですら誰一人知る人はいない。」
 ということでしょうか。
 一休禅師は尺八を楽器としてではなく深く禅の悟りに導くものだと考えました。今でも一休が晩年を過ごした京田辺の酬恩庵一休寺には愛用した尺八が大切に保存されています。
 
 この尺八禅とでもいうべき精神がやがて江戸時代の虚無僧に受け継がれ、本(ほんきよく)曲(きよく)と呼ばれる尺八独奏曲として現代にも継承されてきました。
 
 第一部ではいろいろな本曲に秘められた禅の精神性を感じていただければ幸いです。
 
1.「瀧落」(たきおとし)琴古流尺八本曲   練習生 音羽
 
2.「三谷菅垣」(さんやすががき)琴古流本曲 土井通有
 
3.「下り葉の曲」(さがりは)琴古流本曲    杉本 昇
 
4.「鶴の巣籠」(つるのすごもり)琴古流本曲  貴志清一
 
5.「産安」(さんあん) 古典本曲      石川利光
 
6.「鹿の遠音(とおね)」琴古流尺八秘曲    石川利光
                            貴志清一
 
 今回は横山勝也氏の高弟で国際的な活動をされています 石川利光氏を迎えての演奏会でした。
 
 当日の様子ということで「鶴の巣籠」を参考音源としてお聴き下さい。
(「鶴の巣籠」の音源 演奏:貴志清一)

https://comuso.sakuraweb.com/music/408-1turu.mp3

 さらに、石川氏の「産安」は二尺二寸の落ち着いた響きで会場から大きな拍手がわき起こりました。
 
 さて、第2部は箏と一節切と尺八の演奏をさせていただきました。
 
 
第2部 一節切〜尺八・琴の二重奏
 
1.「やわらかに」宮田耕八朗作曲
   尺八:貴志清一
   箏 :新谷佐登美
 
2.「安田」(室町期の一節切独奏曲) 一節切:貴志清一
 
3.「吉野の山」(江戸前期の流行歌復元演奏)
                  一節切:貴志清一
                  唄と箏:新谷佐登美
 一節切尺八は1615年の大阪の陣で戦国の世がやっと終わり、世の中が落ち着いてきてから爆発的に流行します。禅味を帯びた独奏曲よりも流行の小歌に合わせて、また琴や三味線といっしょに吹くことが好まれます。1664年には一般向け独習書『糸竹初心集』(しちくしょしんしゅう)まで現れます。
「吉野の山」はその中でも長らく流行った小歌で、本日は当時の楽譜からの復元で演奏いたします。今から350年程前の曲と言いますと狭い音域で謡(うたい)のようなものだと思いがちですが、B3からD4までの1オクターブ以上の旋律の動きがあります。
 
 1600年後半に大流行した「吉野の山」の一節切復元演奏(歌付き)はめずらしいと思いますのでお聴き下さい。

(吉野の山」音源)
 
https://comuso.sakuraweb.com/music/408-2yoshino.mp3

4.「惜別の詩」宮田耕八朗作曲
 
 終了後のアンコールとして「黒田節」と「もみじ」を会場の皆さんにも歌っていただき、和やかな中に演奏会を無事終了することが出来ました。
 なかなか盛りだくさんの演奏会でしたが、秋の昼下がり、尺八をみなさんに聴いていただけたありがたさを実感させていただきました。