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「尺八愛好家のあこがれ『春の海』を吹く」(音源付)
貴志清一
尺八愛好家の皆さんの中で「春の海」を吹いてみたいという動機で練習を始められた方もたくさんいらっしゃるかと思います。
かく言う私もその一人です。この曲は私たちアマチュアにとっては難しい曲で、なかなか思うように吹けません。しかも生業を持っていますので時間的な余裕も少ないものです。
そこで何とか合理的な練習法を考えて「春の海」を人前でも演奏できないかということで
『尺八吹奏法・運指編』(PDF公開中)を書いてみました。
「演奏会案内」でも紹介していました2016/12/11「ワールドミュージックコンサート」では主宰者の意向でオープニングの1曲目は一般の方々もよく知っている「春の海」を演奏して欲しいとのことでした。 アマチュアながら自分の『尺八吹奏法・運指編』の効果を自ら試す良い機会だと思い引き受けた次第です。
➀ゆっくり・ゆっくり確実に吹ける速さから練習をはじめる。
②むつかしい音型はリズム型を変えて練習する。
この➀②を毎日練習してきました。プロで活躍されている奏者のように、華麗な演奏は望むべくもありませんが38年間"メシより好きな"尺八を吹き続けてきた一つの通過点としてお聴き頂ければ幸いです。
『春の海』
思えば
『尺八吹奏法Ⅱ』の中心になっています「口腔前庭法」は昔、一尺六寸管で「萌春」を吹いたときの感覚から出発したのもです。
一尺六寸管は一尺八寸管に比べて息の圧力をかけると良い竹ならそれに見合う響きで応えてくれますので、上唇裏の口腔前庭を実感できやすかったのです。
しかし、その口腔前庭法を理論化し、一尺八寸管でも再現する道のりは長かったです。
『楽器の音色を探る』(中公新書)という本の中の「上唇の丸み」理論との連携、そして吹奏を支える腹式呼吸の深化等々、いろいろと考えて参りました。
コンサート当日は500席ほどのホールが8割方埋まり、少々上がり気味だったのですがなんとか吹き通せました。
せっかく一尺六寸管を持っていながら、あまりお吹きにならない愛好家のみなさんは、この辺でもう一度一尺六寸管で「春の海」に挑戦してはいかがでしょうか。副産物として口腔前庭の感覚が獲得できるかも知れません。万一、この感覚が得られれば、
「何でこんなに尺八が楽に吹けるのか!」
「何で乙ロから大甲までスムーズに音がでるのか!」
「何でこんなに、いくらでも音を押していけるのか!」といった感慨に耽ることができます。
但し、口腔前庭を獲得した暁には少々困ることもあります。大抵の地塗り尺八は吹き切ることができるので「竹がいっぱい、いっぱいに鳴」ってしまい、良い音色の竹でない限り自分の竹が「ビエ~~」という鼻につく音になります。もうそうなると「もっといい音色の竹」を求めてさまよい歩くことになるからです。良い竹を求めての旅は長く・辛く・厳しいものです。