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インターネット会報2014年4月号
竹林で聴く尺八の音(ね)
貴志清一
2014年4月3日晴れ
関西一節切研究会の第8回研究会は野外実習でした。目的は、
1.一節切の材料にしている黒竹の林を実際に見学しながら"なぜ一節切は普化尺八と違って、天地を逆にして製管しているのか"という基本的且つ興味深い問題を考える。
2.生産高日本一を誇る紀州日高・原谷黒竹生産協同組合を訪ね、実際に薬品を使わずに加熱燻蒸による防虫・防カビ作業を見学する。
3.余力があれば黒竹組合から山ひとつ隔てたところにある虚無僧尺
八発祥の地〈興国寺〉を訪ね境内にて吹禅修行をする。
と、表向きはすごい目的なのですが、裏向きは"お弁当を持ってみんなワイワイ有名な熊野古道を歩き、ついでに製作用の黒竹を購入し、その足で興国寺見学をする”という物見遊山が目的でした。
総勢5人で10時に和歌山(紀州)湯浅駅に集合しました。
熊野古道は世界遺産になっていますのでご存じの方も多いと思います。湯浅駅から広川という川をさかのぼった所に河瀬王子があります。王子というのは熊野詣の道中、熊野権現の分身を祀り参詣者の道しるべとしたものです。ここから東の馬留王子を通ります。馬を留めなければならないのは坂が急だからです。1201年にここを通った後鳥羽上皇の熊野詣の一行も馬に積んだ荷物をここから降ろし人力で担ぎあげました。ここからは鹿ヶ瀬峠という山越えが始まるからです。国宝にもなっている藤原定家自筆「熊野御幸記」には、
「夜また雨。次にツノセ(河瀬)王子に参り、次にシシノセ山(鹿ヶ瀬峠)をよじ登る。険しい山道・岩石は昨日と異ならない。」
とあります。
現在は林道のような広い山道ですので"よじ登る"という感覚は無いのですが、昔は急登の道だったのでしょう。
かなり汗をかいて峠に着きました。ここから下りになり小峠を経て熊野森林公園で昼食をとりました。ここは峠の少し下で開けた谷間になりますが、谷川は細いので春の日差しがいっぱいの暖かい場所です。至るとことに黒竹が群生していましたので丹念に植相をみました。
一節切にできそうな黒竹もあるのですが、太さや節間を考えるとなかなか楽器になるような竹は少ないことが分かりました。
4月の始めらしい晴天に恵まれ良い空気を十分楽しみ、全員一尺八寸管を持参していましたので即興で演奏が始まりました。
一人が自分で考えて例えば、「ツレ〜」と吹きますと残りの者が「ツレ〜」と呼応します。一瞬先の奏者の「レ」と後の「ツ」の音が重りますが、この響がまた面白いのです。それを色々音型を変えて呼応していきました。一人は吹かないで10,20m離れた所で聴くのですが、本当に「尺八本曲は野外という環境で洗練されてきた音楽だ」ということを実感できました。
一節切研究会ですので一節切も持参していた方が独奏で吹いたのですが、私の個人的な感想としては、少し音が高く、あまり野外ではなじみにくいのかなとも思いました。
これは個人の好みですので、あくまでも私だけの感じ方かも知れません。一節切セットご購入の方で、野外で演奏してみてのご感想がありましたらお聴かせください。
私としては、「一節切の音は野山で吹くよりは、座敷や寺院の本堂で吹く方がよりふさわしい」かなと思っています。
そうこうしているうちに黒竹組合に来訪予定の1時が近づいてきました。ここから1時間の所ですので先を急ぎました。
途中桜が満開、それにレンギョウ、桃、彼岸桜も混ざり、まさに花盛りの熊野古道でした。
ややもすると花に心を奪われる道中でしたが、担当者としての私は若干気が焦り原谷黒竹組合に着いたのが2時でした。ここで850度の釜で加熱燻蒸するところ、曲がった竹を直す作業等を見学し一同倉庫に行きました。一束3,40本に結束された黒竹びっしり並んで居ました。一節切にするのはその中の8号の竹材です。それでも10束ほどありさっそく結束を解き竹材選びが始まりました。
古管一節切の吹き心地、音程感をほとんど再現できる高い技術の柏木さんは選定用のゲージを持ってきていらっしゃいました。節間が十分でも少しでも細かったり、また太かったりしては調律できません。 1束から5,6本ほど一節切竹材として良いのがあるのですが、その3mの1本の中から一節切になるのは1本。上手くいって2本とれれば御の字という感じです。
みんなでワイワイ言いながら「これはいい」「いや、少し細すぎる」「下の方は捨てずに三節切にしよう」「太いのは尺八になる」等、勝手なことをいいながら時間が過ぎていき、黒竹組合を出る頃は3時半も過ぎていました。こうなれば興国寺は明らかに無理。一同歩いて熊野古道の続きのJR紀伊内原駅を目指しました。
1時間弱で今日のコースの最終王子である高家王子に着きました。ここの裏は広い神社になっていました。
尺八吹奏研究会の顧問の神崎さんも一緒でしたので、お参りしたあと神前にて「鹿の遠音」を吹き合わせました。6月1日に関西一節切研究会の発表会での予定曲です。5月末までは中国での指導・演奏予定があり事前に練習できませんので「今から吹こうか」という次第です。同行の3人のみなさんが聴衆ということで始めました。野外で鹿の遠音を連管するのは初めてです。音が散ってしまうのではないかという危惧はすぐに消え、お互いの音の重りも美しく音の劣化どころか、かえって充実した響で演奏できました。
予定外のことでしたが、ここでも「尺八は野外吹奏に向いている」ということを実感できた次第です。
そこからしばらく行くともう紀伊内原駅でした。普通電車を待つ間缶ビールが回ってきまして、しばしプラットホームでささやかな打ち上げとなりました。(完)
[ご案内1]
〈糸竹初心集による一節切入門セット頒布〉
セット内容は以下の3点です。
@復元一節切(国内産黒竹−加熱燻蒸による防虫加工−)
※口に当てて長期間吹くものですので中国産等、輸入品のリスクの高い薬品による防虫加工竹ではありません。
A復元演奏CD(推定1600年代古管一節切、焼印「如山」貴志所蔵)
B「糸竹初心集」活字板、尺八部の原文・現代語訳・解説、影印(一部)
○ご希望の節は下記の要領でお申し込みください
頒価 :3点セット \6,000 送料込
ハガキに 住所、ご氏名、を記入の上、「一節切セット希望」と明記し
〒590ー0531 大阪府泉南市岡田2ー190-7
尺八吹奏研究会 貴志清一宛、ご投函下さい。
(なお製管は念入りに調整後、鑑定していますので、発送まで時間がかかることをご了承ください)
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「尺八吹奏法U」ご注文の節は、
邦楽ジャーナル通販 商品コード5241、
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(送料別途)