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インターネット会報2014年2月号


一節切(ひとよぎり)材・国産黒竹を求めての旅
貴志清一

 尺八吹奏研究会とは別に関西一節切研究会が発足して半年、私も含めて第一期生4人で今は完全に滅んでしまった一節切の研究を進めています。月1回の会合も5回目を終え多くの発見がありました。
 その一番の成果は、『糸竹初心集(1664刊)』などに掲載されている一節切の曲を古管に近い水準で再現できる複製品が作れるようになったことです。
 第一期生の中のお一人、柏木さんは私と同じように実際に古管一節切をお持ちになっておられ、私の古管と比べることによっていろんなことが分かるようになりました。第2回目の研究会ではさっそく実際に一節切を作るということになりました。講師はもちろん私が担当しましたが、時間が経つ内に永らく尺八作りを手がけられた柏木さんが自然と教える立場になり、私がその助手のようになりました。
 そして、よくよく聞いてみますと他のお二人の内お一人は実際に一節切を何本か作った経験があり、もう一人はいろいろなケーナを作ってきた方でした。
 私の作る一節切もなんとか「糸竹初心集」の曲を再現できると思うのですが、柏木さんのはもう一つレベルが上で、失敗作が少ないのです。4人で知恵を出し合いながら一節切製管についてだんだんより深い理解ができたように思います。その後も研究会毎に一節切の試作をみんなで評価するという熱心さで今まできました。
 尺八は"漆一枚"一塗りでもう鳴りが変わるといいます。一節切は円筒に近いし適当に作ればすぐに古管のレベルまで届くと思うのは大間違いで、きわめて微妙な技術が要るようです。
 古管一節切の節はどれもみな大きく膨れあがっています。このふくらみは、どうせ中の節を削り少し残った状態にするのですから関係ないと思っていました。しかし、節のふくらみの少ない竹材では各音程の取り方が違うのです。もうそれは不思議としかいいようがないほどです。古管に使っている節の出た竹材はめったに見つかりません。
 そして内径にしても18mmほどなのですが、ほんの少し違っただけで基音の高さがまるで異なってきます。
 研究会は回を重ねる毎に新たな発見があり、講師役の私が一番勉強させていただいているというのが実際の所です。

 楽器としての一節切にもどりますが、柏木さんを中心に私もいますので「古管に近いレベルで曲を再現できる復元一節切」が可能になりましたので、研究会の成果として「糸竹初心集による一節切入門セット」を研究資料として頒布する計画を進めています。中心は『糸竹初心集』の本文-現代語訳-解説で、その補助として掲載曲の古管による推定復元演奏CD、それに自分自身で再現するための復元一節切をセットにするという内容です。
 3月号にその紹介をさせていただく予定です。
 ただその際、適切な竹材がなかなか手に入りません。古い昔の民家から出る煤竹(真竹)が一番いいのですが、一節切にちょうどよい材料はまったく希少です。それに研究資料とはいっても、5本から10本は用意しなければならないでしょう。
 それではということで、ホームセンターの白竹が適当で、1本から一節切一管ぐらい、上手くいくと2管はとれそうです。
 しかし、ちょっと待って下さい!
 一節切は口を当てて長期間吹くものです。竹の割り箸ですら輸入物は問題になっていますね。白竹の生産国を見ますと中国産がほとんどです。そこで少し調べますと、防虫・防かびには体にとって高リスクの薬品で処理されているようです。ほんの一時的な竹の割り箸でも薬品で処理された物は避けた方がいいのですから、一節切の材料としては使ってはいけないことは小学生でもわかりますね。
 柏木さんが中心になっていろいろ竹材探しをしていただいたのですが、国産黒竹なら防虫等は加熱燻蒸(油抜き)で処理されています。もちろん艶はワックスの薬品ではなく、自然な油抜きによる艶です。若干竹の肉厚が薄いのですが、決まった量の竹材が入手できるという利点があります。
 国産黒竹は竹材屋さんである程度入手できるのですが、直接生産組合から手に入るところもあります。その一つに、国内黒竹生産の半分以上ある和歌山県日高郡の原谷黒竹生産協同組合があります。
 さいわい関西圏ですので、疑り深いわけではありませんが、実際に生産現場を関西一節切研究会の担当者として見ておかなければと思い黒竹組合の代表の楠山さんに連絡して2月1日に見学に行きました。
 「鐘に恨みは数々ある」紀州道成寺の近く、紀伊内原駅から歩いて1時間のところです。この行く道がちょうど世界遺産の熊野古道です。 紀伊湯浅からですと、河瀬王子まで歩き(または平日バス)800年前に藤原定家が「険しいところや」とぼやいた鹿ヶ瀬峠を越えて3時間ほどで着けます。歴史好きの人には感激するほどの良いハイキングコースです。
 山際の沿道には黒竹がずうっと生えているところもあり、
「一節切の材料でいっぱいだ」と妙に感激していました。また、真竹の林もあり、ここでも、
「うわぁ、地無し管の竹材がいっぱい生えている」と訳の分からないことを考えながらいきました。
 原谷黒竹生産共同組合の建物に着きますと、土日は休みなのに私のために炉に火を入れてくれていました。紙面の会報の5ページ目に写真がありますので、会員の方はそれを見ながらお読み下さい。

 まず、50ヘクタールほどあるという黒竹林から竹を切り出します。生産というのですが、それをこの工場もしくは作業場に集め電気炉で加熱燻蒸をします。以前はコークスや重油を使っていたとのことですが臭いがありますので今は衛生的な電気炉を使います。円筒形の炉の向こうに竹の曲がりを矯正する長い木があります。この矯正は長年の職人さんの技術がいるといいます。長い黒竹は奥の長い炉で加熱し機械によって曲がりを直し、最終的に手作業で職人さんが真っ直ぐにします。なんとなく竹というのは一直線に真っ直ぐ生えていると思っていたのですが、大間違いだと言うことを学習できました。
 工場のどこを見わたしても薬品らしいものは見当たりません。「加熱燻蒸による防虫、つや出し加工」ですから当たり前なのですが、これにも変に感動しました。
 加工が終わると太さ別に束ねて倉庫に立てておきます。乾燥も兼ねて出荷を待つのです。
 説明が終わりいろいろな黒竹の話をうかがいました。
 たとえばお茶で使う茶筅ですが、本来一節切と同じく煤竹がよいのですが白川郷のような民家がもう屋根を葺き替えなどしなくなりましたので竹材がないようです。かといって実際に口にする道具ですので薬品処理、しかもリスクの高い薬品で防虫・防カビ加工の輸入竹では困るというので、ある京都の工房ではわざわざここの黒竹を購入しているとのことです。
 また、島根県で横笛を作っている人もここの黒竹を使っていますとのことで、私の考える「口を付けるもの」だからだそうです。

 いろいろなお話しを伺い、私も自分の製作用に1mの竹材を4本購入しました。帰りは日も傾いてきたので軽トラで送ってあげるという言葉に甘えすぐに紀伊内原駅に着き紀勢線の各駅電車でJR和歌山駅に向かいました。


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